手をつなぐこと

ちょっと前のお話です。

 私、怒っているのです。私たち(中学部の生徒と教員)は普段からしょっちゅう手をつなぎます。
 それを見たよその人(嫌な言い方でごめんなさい)が「中学生にもなって手をつなぐのはその子を差別しているからや」なんて言うのです。「精神薄弱の子は、女の子と手をつないだり、抱きついたりするといけないから、女の子の体にはけっして触れないように指導するのが、この子たちの性教育だ」なんて言うのです。
 私、もう、怒ってかんかんなのです。子供たちのことを精神薄弱ってよんだから、この子たちって言ったからということで今日は怒っているのではありません(いつもはそれだけでもおもしろくないのですけど今日はそれどころじゃないって感じです)。
 大ちゃんは「本当に仲よくなってもいないのに目なんかあわせられん」と言います。目もあわせられないし、手をつなぐのだってやっぱりなかなかのことだと思うのです。でも心を開きあって、だんだん仲よしになり、お互いに好きになるとそばにいたいなあと思うし、手もつなぎたいなぁと思うようになるんじゃないでしょうか。そのころになるとようやくお互いが自分の気持ちをあらわせるようになり、そこからいろんなことが始まっていくと思うのです。
 それなのにどうして「手をつなぐなんて差別や」なんて言うのでしょう。私たち、みんなのことを手をひかないと何もできないなんて思っているわけではもちろんないし、危ないから手をつないでいるわけどもありません。「中学生は手なんかつないどるか」ってその人は言ったけど、中学生も高校生も大人も好きな人とは手をつなぐし、つなぎたいと願っていると思うんです。
 本当に私たち、人を好きになるとその人のそばにいつも一緒にいたいし、できればその人の体の一部にいつもふれていたいと思うものですね。手をつなげばとてもうれしいし、心が温かくなる、その人のためにがんばろうと思えるし、自分のいろいろな気持ちを伝えようとも思う、いきいきできる、手の温かさからもらうパワーってすごいんですね。人を愛することってすごいんですね。
 私たち、一緒にいることが、毎日とってもうれしいし、幸せなのです。心から、子供たちと私たち……ああ大好きって思えるし、きっと子供たちも私たちを大好きでいてくれてるなあと思えるから。それでね、時々手をどちらからともなくつないだり、肩をポンポンってったたきあっこしたり、そんなふうにすごしています。
 それにね。手をつないだ時の気持ちの温かさや安心を得たいと思ったのは小さいときだけだったでしょうか。その温かさから得られるパワーのこと忘れてしまっているのじゃないでしょうか。それから「養護学校の子」とか「精神薄弱の子」なんて枠にどうしていれてしまうのでしょうか。どこの学校の子でも同じなのに。そして好きあっているもの同士(私たちのように)が時には手をつないでいるからといって、どうしてだれ彼となく女の子に触ったり抱きついたりなんて思うのでしょうか。みんなは相手や場所、お互いの気持ち(それから自分をうけとめてくれる人かそうでない人か)ということをわかりあった上で行動する素晴らしい力をもっているのに…… 
 私ね、いっつも好きな人が喜ぶなら、がんばろうかなぁってばかり思って、いろんなことをしているような気がします。好きな人が私の原動力、好きな人のためなら「えいや」ってちょっとむずかしいんじゃないかと思われることも、できてしまうからすごいことです。そして、好きな人のそばにはやっぱりくっついていたいし、腕のなかにいると(または、腕のなかにつつんでいると)不思議と心が落ち着いて満たされた気持ちになります。みんなそうじゃないかなって思うのです。
 それでね、以前は人前でのおしゃべりがにがてだったやっちゃんが、この頃よく自分の気持ちをお話してくれるようになったことも、負けそうになったりくじけそうになってもすぐに自分の力で気持ちをたてなおしてくれるのも、よろこんで学校に通ってくれているのも、それから、かっちゃんが「昨日のお話」を時には自分からしてくれるのも、いつもにこにこしているのも、そして大ちゃんがみんなににっこりと、おはようと言ってまわれるのだって、自分の気持ちを詩にあらわすことができるのだって、もし、この“温かパワー”がなかったらどうなのかな、できていなかったのじゃないかなとそう思うんです。
 私たちのクラスの朝の会はまず当番とひとり一人の握手から始まります。目を見て、にっこり笑いあって、「おはよう」と言いあったとき「ああ、うれしい。今日もみんなに会えたな」って「よし、今日もいっしょにがんばろうね」ってそう思えるのです。
 今、私たちのこの学校の中学部全体がたぶん同じ考えでいます。そしてみんな学校がとても楽しそうだし、思いやりをもってお互いを考えあえるし、みんながいきいきしています。とてもうれしいことです。

「わたしの気持ち」のページへ

メニューへ戻る

inserted by FC2 system