町に出るということ

今高校3年生の友達たちと一緒に毎日をすごしています。
 4月に、今年が卒業年だということもあって、社会とつながり持つということ、町に出るということを目標に一年をすごそうという目標を立てました。
そういうことで、いろいろな場面で町に出ているのですけど、いろいろな場面で、ああ、町に出ることって、子どもたちにとっても、町に住んでおられる人にとっても大切なことなんだなあって思うのです。
 近くにあるお酒やさんは、お酒だけでなく、お菓子やおかずやたくさんの食料品がおいてあります。そこへ出かけたときのことです。
 道路を歩いていて、歩行器や車椅子だととても困ることがあります。そのひとつが道路の下水のふたがの粗い目の鉄の格子です。車椅子の前輪がはまったり、歩行器の車がはまってしまうと、もう前へ進めなくなってしまうのです。それどころか突然はまると怪我をしかねないのです。
 学校の前からずっとのびる道路の端っこには、そんなふたがところどころずっと続いています。
 気をつけて通っているのですけど、その日もお酒やさんの前でちょうど、その格子に歩行器のタイヤがはまってしまいました。そばに教員がいて、ささえなかったら、ようちゃんは怪我をしてしまっていたかもしれません。
 その様子をみておられたお酒やさんのご主人が、「おお、あぶないなあ。僕ら、なかなか気がつかなかったけど、養護学校がこんなに近くにある道路が、こんな危ないんじゃ大変や。今すぐ、おっちゃんが電話してやるわ」とびっくりしたことにその場で、市の土木課に電話してくださったのです。「今ひとり、養護学校の子が、前で怪我して大変なことになったがや。すぐになおしてもらわんと困るがね」そのときに怪我はしていなかったけれど、危なかったことは本当です。お酒やさんのやさしいお心使いがとってもうれしかったです。そのあと、そのお酒やさんでお買いものをしたのですけど、車椅子が通るにはけして広くはない店内ですが、ご主人が「どれほしいんや?これか?これはおまけやしあげるわ」って言ってくださって、本当に楽しくてうれしいお買い物でした。
 もし子どもたちが町に出なかったら、粗い目の鉄格子のふたがあぶないんだということだって、どなたも気がつかれないかもしれません。そのことをご主人さんが気がついてくださって、そして、市の土木課に連絡してくださったことが、また瀬領の町にかぎらず、たくさんの人が暮らしやすい町作りにつながるんだなあって思ったのです。だから町に出ることってとっても大切って思いました。
 それから町のとこやさんに行ったときのことです。3人とも、ひとりで、髪型をとこやさんにお話して、自分でお金をはらってきたことはありません。ひさしくんはいつもおうちにとこやさんに来ていただいていて、家で散髪をしていただくのだし、洋ちゃんは、学園にとこやさんが来てくださるので、町のとこやさんで散髪していただくのは初めてなのです。それからのりくんは町のとこやさんでいつもしていただいているけれど、いつもお家の方と一緒にしか出かけたことがなかったのでした。
 とこやさんに行く前に、みんなが髪型をお話したころに私たちも行くけど、でもお金は自分たちではらってかえってきてねとお話してありました。とこやさんの前までみんなで行って、そこでみんなとバイバイしました。
 ところで、みんながお店に行く前に、今日は子どもたちが来るのでお願いしますと前もってお話しに行ったときに、心配なことがひとつありました。車椅子に乗っていたり、歩行器を使って移動している3人は、さっと動物をさけることがむつかしいからか、みんな猫や犬が嫌いです。それなのに、イスの上に黒い猫が長くなって寝そべっていたのです。どうしようと思ったけれど、猫と会うということもあるかもしれないんだから、とお店やさんには何も言わないで、みんなに「あのね、黒い猫がいたよ。恐いからどかしてくださいってお願いしてみてね」と話ました。のりくんも洋ちゃんもぎょっとしたようでしたが、今日は自分たちでとこやさんにいくんだとずっと決めて、決意してきているので、「やめる」とは言いませんでした。そんなふうにしてとこやさんが始まったのだけれど、私たちがあとで入っていって、とこやさんにまたありがたいなあと感謝したことがいくつもありました。ご夫婦のとこやさんの奥さんが、「のりくんは猫がきらいなんやって。なんもせんのやけど恐いといかんから奥にやったわ」と言ってくださったのです。それからのりくんは何かしようとすると、手や足や身体が震えてしまうということがあるのですけど、緊張するとふるえが大きくなってしまうのです。それで髪をスポーツ刈りにするときに、身体が何度も揺れて、私たちは頭が切れてしまわないかしら?と何度も不安になりました。ご主人も最初は「動かんのや。動くとかっこよくならんよ」と言っておられたのですが、何度も動いてしまっているうちに、私たちに「この子は動こうと思って動いているのとは違うんや。緊張して動いてしまうんやな。でもときどき緊張がとけて、じっとできるときがあるから、その合間に切ればいいんやね。わかったぞ」って言ってくださったのです。それから、いつもはおじいちゃんでないと髪を洗うこともできないと思われていた、ひさし君も、とこやさんの髪を洗う台でちゃんとシャンプーできて、3人とってもかっこよく仕上がったのでした。3人が3人ともこうして、初めてとこやさんで自分でお願いして、散髪していただけたということは、3人にとって、とてもうれしいことだったようでした。のりくんはお家の方に「毎週ひとりで行こうかな?今度はメッシュを入れてみようかな」ってお話したそうです。私たちにも「緊張したけど、出来てよかった。出来るってわかったことがよかったし、かっこよくなってよかった」と話してくれました。それから、とこやさんが、「緊張が解けたとき、あいだをぬってバリカンを入れればいいんだ」ってのりくんのことを分かって下さったり、洋ちゃんのこともひさしくんのことも同じようにわかってくださったことがとてもうれしくてよかったなあと思いました。こんなことだって、どんどん町へ出ていくことで分かっていただけるのですよね。
 それから買い物学習で、デパートへも行きました。前もって、「今日はひとりでご飯を選んで食べて、それからお買い物もできるだけひとりでするんだよね」と話をしてあったのです。
 ごはんのとき、私たちには熱いお茶が運ばれてきて、それから、お店の方が、私たちに「お茶は熱いので、お水にしますか?」って聞いてくださったのですけど、私たちが、子どもたちのほうをどうするのかなあっていう具合に見たら、きっとお店やさんも「そうだ、お茶かお水かどちらかを飲むのは子どもたちだから、選ぶのは子どもたちのはずだし、子どもたちに聞けばいいんだ」って思ってくださったようでした。それで今度は子どもたちに「お水にしますか?」って聞いてくださったのがとてもうれしかったです。そうですよね。たとえば靴や鞄を選ぶときだって、もし私たちがそばにいると、「どういうものをお求めですか?」って私たちに聞いて下さるけど、本当に使うのは、子どもたちなんだから、それっておかしなことですよね。
 だから子どもたちに聞いて下さったことはとてもうれしいことでした。そんなときも、町に出ることで分かり合えることってたくさんあるんだって思いました。それからもちろん子どもたちも、自分たちで選んで、自分たちでお買い物ができるってとてもとても楽しいことなのです。
 それからお買い物に行きました。洋ちゃんはお話があまり得意ではありません。それから、計算もむつかしいです。それからお金をおさいふから出したり入れたりするのもあんまり得意ではないのです。だから、洋ちゃんにお買い物ってむつかしいかなって本当はみんな少し不安だったのです。でも、そんなことは少しも問題にはならないことでした。
洋ちゃんと、私と他の二人の女の先生と4人でくっついてプリクラをとったあと、ようちゃんはそれを入れる、キーホルダーを買おうということになりました。洋ちゃんはそれを買いに、ひとりで車椅子を進めました。(その日は歩行器ではなく、車椅子でした)それを遠くでそっと見ていたのですけど、その光景はとても素敵でした。
 ようちゃんは 品物をデパートのレジのところにおられる女の人に、「あー」と言って出しました。お店の人は洋ちゃんの品物を見られて「お買い求めですか?」とおっしゃいました。洋ちゃんは「はー(はい)」と手をあげて返事をしました。それでお金を洋ちゃんが出さないので、どうしようと見ていると、「代金は、そのお財布からとらせていただいていいでしょうか?」とお店の方が洋ちゃんが首からさげているお財布をみて言われました。洋ちゃんはまた「はー」って手を挙げました。「おつりをお入れしますね」「はー」そして商品を入れた袋を最初渡して下さったのですけど、洋ちゃんがそれでは車椅子がこぎにくいということを見られて、「車椅子の後ろにおかけしましょうか?」と言って下さいました。「はー」「ありがとうございました」
そして洋ちゃんはとてもうれしそうに私たちの方へ戻ってきてくれました。はじめてこんなにりっぱにお買い物ができたことがとてもうれしかったのだと思います。私たちも店員さんに感謝すると同時に、ようちゃんの持つ大きな力に感激したのでした。
 町に出て、強く感じたのは、たとえば、計算ができなくても、お話がむつかしくても、おさいふからお金を取り出すことがむつかしくても、だからといって、何もできないなんていうことはないんだということです。お店の人と、町も人とかかわりあいながら、歩いたり、お買い物をしたりすれば、人と人がかかわることで、子どもたちが{ひとりで}できることはいっぱいあるのだということです。
 何もかもできることが自立ではないのだと思います。誰だって助け合って生きているのです。子どもたちも、たくさんの方のあたたかい力を借りることで、いろいろなことが{ひとりで}できる・・それはもうひとつの自立なのだと思います。そしてそうすることで、またいろいろな人が街の中で楽しくくらしていけるようになるのだと思いました。

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