心って不思議

 ちょっと怒ったり、自分のこと悲しくなったり、なさけないと思ったり、うれしくなったり、好きになったり、安心したり・・そんなふうにめまぐるしい心になっていました。

 このあいだのお休みの日、お人形さんの椅子を作ろうと、公園へ落ちている枝を拾いにいったのです。駐車場で車を停めて、降りようとしたら、ちょうど目にはいった車のドアが少しあいて、その車に乗っておられた方が、灰皿をざっと地面にあけてしまわれたのです。そしてその紺色の車は出ていってしまいました。「ひどいことをするなあ」と思いました。「自分の家の前でもあんなことするんだろうか」と男の子がいうコマーシャルを思い出しました。それで、私はその人のことを怒っていました。(コマーシャルの通りだよね。みんなの地球なのに・・)ため息をついて、車からおりて、枝を拾いに行こうとしました。何歩も歩く間、地面の上のたばこの吸い殻の景色ばかり頭に浮かんできました。そのときにはっとしました。私、あの紺色の車の人のこと怒っていたのに、私はそのたばこをそのままにしてきてしまった・・あの人のことを怒っていたのに、同じだった・・って思いました。私って、いつもこんなことばかりなのかもしれません。誰かのこと、悪く思ってしまったとき、そんな自分はどうなのかって思うことができないのです。やさしくないし、自分勝手なのです。そう思ったら、とても悲しかったです。ゆっくりと車のところへ戻りました。枝を拾うために袋を持っていました。そこにたばこの吸い殻をいれようと思ったのです。それなのになぜか勇気がでません。恥ずかしいような気がしました。それで、周りを見て、歩いている人があっちの方へいってしまってから、走っていって、さっと袋の中に入れました。すごく悪いことをしているみたいにおどおどしました。入れ終えて、少し歩き出すと、なんだかほっとしました。それから公園へ枝を拾いに行きました。

 台風で強い風が吹いたので、枝は太いものも細いものもたくさん落ちていました。拾って、ベンチにすわっていたら、男の人が声をかけてこられました。「あの、さっき、拾っていましたよね。吸い殻。僕が捨てたんです」びっくりしました。「だって、車はもう・・」と言いかけると、「違うところに停まっていたんです」と言われました。見ておられたんだと思うと、どうしようと思うくらい恥ずかしい気持ちになりました。そこにいられない気がして「ごめんなさい」とだけ言って走って逃げてきてしまいました。

 その日から私は何度もそのことを思い出しました。私は自分が悪いときでもほかの人をすぐに責めてしまったんだということ、むこうから話かけてくださったのに、逃げるように帰ってきてしまったということをとても悲しくなさけないような気がしていました。

 それで、もう何日もたって、私は本やさんで本を見ていました。突然頭の上の方で声がしました。「よく会いますね」それはあのたばこの人でした。そのときも逃げてしまったことを思い出して、逃げていきたくなったけど、そのときは逃げたりしませんでした。「あのとき、びっくりしました。どうして逃げていったんですか?」私は、最初、たばこを捨てられたことを怒っていたのに、そのままにしていた私は、捨てられたあなたと同じなのに、あなたのことを心で責めていたので恥ずかしかったのと、拾うこともなぜか恥ずかしい気持ちでいたからと話をしました。その方は少し黙って、それから「変わってるね」って言いました。変わってると言われても、なれているので、そんなに悲しくはないのですけど、なんてお返事していいかわからないので、「それでは・・」って言って、失礼しようとしたら、その方は私の後ろ姿に向かって、「あれから、捨ててないんだ」って言われました。私、うれしくなって、笑っておじぎができました。

 本を買って外に出て、車に乗ったら、またあの男の人が本屋さんから出てこられるのが見えました。本当に不思議なほどよく会います。それから私見たのです。その方は道路で、何か拾われました。私、目がとても利くので、わかったのです。それはどなたかが落とされた吸い殻でした。

 いい人だったんだって思ったら、私も自分のこと、ちょっと嫌いって思ったけど、あとで拾いに行ったんだし、好きでいても大丈夫と思いました。そしたら、安心して、とてもうれしくなりました。こころってころころかわるから、こころっていうのかしら?おかしいよね。

「わたしの気持ち」のページへ

メニューへ戻る

inserted by FC2 system