あきちゃんのお話

あきちゃんと私はインターネットで知り合いました。

 あきちゃんからの最初のメールをあけたとき、真剣な思いが、とても少ない文字に、少ないからこそ、なお心に深く沈むように私の心に届いたのでした。

「歩けないのに、あきの足がふたつに分かれ、
その先に指のあるのがにくらしい」

 たった二行、それだけのメールでした。
 いったいどんなお返事が私にかけるのでしょうか?すぐにでもお返事を書かなければと思いながらも、ただ、あきちゃんの言葉を繰り返し繰り返し、心の中でつぶやいて一日がすぎてしまいました。
次の日、

「使えないのに、あきの手がふたつもあって、
その先が5つに分かれ指のあるのがにくらしい」

そんなメールが届きました。

 あきちゃんはきっとインターネットで「たんぽぽの仲間たち」のホームページをみてくれているのじゃないかしら、そしてメールをくれたのじゃないかしら、そんな推測をしてみても、やっぱり私はなんてお返事を書いたらいいのかわかりませんでした。
 手や足が大事なのは、手や足が動いて、自分にとって便利なことをしてくれるからだけなのだろか?そうではない気がする・・・・だけどその理由をはっきりと言葉で書くことができずにいました。たったふたつのメールであきちゃんが男の方なのか、女の方なのか、大人の方なのか、子供さんなのか、そんなことすらわからないのです。どんなふうに書き出したらいいのかそれさえもわかりませんでした。
 
 同僚の山田先生はとても物知りです。それだけでなくて、困ったとき、いつも何か必ず教えてくれるのです。「あのね、お友達が、歩けないのに、足があるのが悲しいって言ってるの、私ね、歩いていても、歩けてなくても自分の足ってきっととっても大切だと思うの。でもどうしてかってよく言えないの。どうしてなんだろう」
「父親の遺伝子と母親の遺伝子から手や足ができているからでしょう」
 山田先生が教えて下さったことを聞いて、私とってもうれしくなりました。本当にそうです。私がぼんやりと思っていたのはそのことだったような気がしました。
 
 私の手、大好きな母の手によく似ています。それから関節のところ、大好きな父によく似ています。それから会ったことはなかったり、小さいときになくなってしまってよくは覚えていない祖父や祖母の手や足に、きっとこの手や足はどこか似ているに違いないのです。それから私が小さいときに、きっと父や母は私のこの手や足を、きっととっても愛してくれたと思うのです。走るのもすごくおそかったし、ころんでばかりで傷だらけだった小さいときのこの足を、きっと可愛いと思ってくれたと思うのです。そんな足を私はとっても好きだと思いました。
 生命って、やっぱり生命の力で生きてるんだって、そんなことが急にわかったような気持ちになりました。
 こんないいことに気が付けてよかったと思ったら、すぐにあきちゃんにもお話したくなりました。
「あきちゃん、メールありがとう。私の手は大好きな母によく似ています。父の大きな手は似ていないようだけど、関節のところが似ていると小さいときによく言われました。とても小さい頃、私の足はぽちゃぽちゃしていて可愛いと、父と母がよくなでてくれました。だから大好きな手です。大好きな足です。あきちゃんの手や足は素敵な思い出を持っていますか?またね」
 どきどきして待っていたら、とてもうれしいメールが届きました。
「ありがとうございました。私は大切なことを忘れていました。私の手と足は使わないから、ほそくてやわらかで、働き者の父の手にも母の手にも似ていないようだけれど、爪の形が母によく似ています。毛深くないのが、父、母りょうほうゆずりです。小さいとき、今はもういない祖母が、私の足が歩けるようになりますようにと毎日のように何度もさすってくれました。私は一生歩けないのに、そんなことを言われるのが嫌でした。祖母に足をさわられないようにしたくて「嫌、やめて」と冷たいことを何度も言ったことがありました。こんな足、いっそなければいいといつも思っていたけれど、足があったからこそ、おばあちゃんの手がさする場所があったのです。おばちゃんが、私の足をいとおしく思ってくれたということを、しみじみ気がついて、涙があふれて止まりませんでした。父も母もどうにかして歩けるようにならないか、手がつかえるようにならないかと、たくさんの病院や寺院、神社までまわってくれたと聞いています。私のこの手足があったからこそ、父と母はそんなにも愛情をかけてくれたのだと、今になってやっと気がつきました。遅すぎます。いいえ遅すぎることはないのかもしれません。私はずっと冷たい娘でした。歩けない、動かせない・・そんなことばかり思って、手や足を憎んできましたから。でも間違っていました。私の手と足は、父や母は祖父は祖母からうけついだ大事なものでした。父や母や祖母が可愛い可愛いとさすり続けてくれたものでした。ありがとうございました。今日はとにかくお礼だけ書かせてもらいます。
これからもたんぽぽの仲間たちで頑張って下さい。  あき」

 大切なことを教えて下さった、あきちゃんと山田先生に今、私ありがとうの気持ちでいっぱいです。私は今自分の身体のすべてが抱きしめたいほどとてもとてもいとおしいです。大好きな人が小さい頃から愛してくれた、私の身体のすべての部分。父や母や祖父や祖母にどこか似ている大切な部分。とてもとても幸せな気持ちです。 あきちゃんにホームページに載せてもいい?と聞きました。今は少し恥ずかしいから、「あき」という名前だけを出してお話してねということでした。いつかたんぽぽの仲間たち、みなさんとお話できるような気持ちになったら、掲示板にも顔を出すよと言ってくれたこともうれしかったです。あきちゃんありがとう。

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