宇宙の秘密

7 いつかのいい日のために

 

宇宙の秘密という規則みたいなものがあるとしたら、私は、その一つに「どんなことも、きっといつかのいい日のためにあるんだ」というのがあるように思うのです。

 だって、“大きな力”はなんてすごいんだろうと思うのです。

 アフリカに行ったことがあります。大好きな象にいつか会いたい、アフリカの大地にふれたい・・・そう思っていたら、本当にアフリカに行くことができました。

 そこで見た象はとても大きくて、そして優しい目をしていました。歩いて森を見るというツアーで、象の食事場所に連れて行って頂いたとき、大きな木が皮をめくられ、たおされたり、泥だらけになっていたりしました。それを見て、私は、ガイドのキュリさんに「象は森を壊してしまう?」と尋ねました。キュリさんは「ノー」と言いました。「象は森をつくるよ」と言ったのです。

 象は食べてすぐにウンチをするのだそうです。だから、堅い種までは消化されることなく残るのだそうです。それで、ウンチに入っている種はウンチを栄養にして、どんどんどんどん大きくなります。実際に、ウンチから芽がでているのをたくさん目にしました。そのほかにも、象のウンチは、あっという間に、ウンチの形のまま半分土になっているのを目にしました。そしてその形のままシロアリのアリ塚になっていたり、そこから木や草が生えて草原や森ができたりするのですね。ウンチから生えてきた草をたくさんのカモシカやガゼルやヌーが食べていました。アリ塚のアリを、小さい肉食の動物が食べていました。本によると、草原の草さえ、広い葉の部分、茎の部分、根の部分と食べわけがなされているのだそうです。すべての動物たちが、本当に鎖のように、結びつきながら生きているのですね。

アフリカで、たくさんの動物のすみかであるサバンナに立っていたとき、私は、たくさんの不思議と、たくさんの偶然に、心が震えるほどでした。どうして、こんなにうまくすべてのことができているのだろう、象が未消化でウンチをして森をつくるということ、ウンチがアリ塚に変わること、どのひとつだって、誰かが設計図を書いたのじゃなければありえないことのように、私には思えてきたのでした。

 もし、ウンチがいつまでたっても、ウンチのままだったら、いったいこの世の中はどうなるだろうかと思うのです。あっという間に、空気はウンチのにおいでいっぱいになって、ばい菌だらけになってしまう・・・ウンチがやがて土になるということは、とても大きな意味があるのですね。ところで、動物たちも、死んでしまえば、ウンチと同じように、みんな土に変わります。そして、また草を生やし、命の源となる・・・森の葉っぱも、秋が来て、枯れ葉になり、それが腐って、土になります。もし、命というものに終わりがなければ、すぐにこの地球は動物や木でいっぱいになりすぎて、大変なことになるのに、そうではなくて、ウンチも、木も、そして、動物もみんな土に変わるということは本当になんて不思議なことでしょう。

“大きい力”が「いつかのいい日のために」ちゃんと大丈夫にしてくれるのかなって、だから私思ったのでした。

  もう何年も前のこと、NHKの人体Vを見ていて、とても興味深い放送の内容がありました。

 その放送はこんなふうでした。

アフリカでは、鎌状赤血球貧血症という病気を持っている人がたくさん見られて、その病気は、遺伝子によるものだということがわかっているのだそうです。ところで、その遺伝子を持っている人の兄弟を調べると、4人に一人が、貧血症を発症して、呼吸困難や発熱や痛みなどの発作がある障害を持ち、そのうちの二人は、鎌状の赤血球の遺伝子を持っているけれど、障害はなく、そして残りの一人は、その遺伝子を持たないのだそうです。鎌状の赤血球の遺伝子を持つ人がたくさんいる一帯でマラリアが流行ったときに、みんながばたばた倒れて命を落としていったけれど、鎌状の赤血球を持った人たちが、その病気にかからずに、その一帯のひとたちが絶滅することなくすんだというのです。不思議なことに、マラリアが流行る地域で、鎌状赤血球の遺伝子をもつ人が多く見つかっているのだそうなのです。

NHKの放送では、マラリアに強い、鎌状の血液の遺伝子を持った人が存在するときには、鎌状血液で障害を持っている人も必ず存在するということになる、言い換えれば、もし、鎌状血液を持ち、身体に障害を持っている人がいなかったら、他の二人も存在せず、そのあたりの人たちはマラリアによって、絶滅したのではないか、だからその障害を持った人はとても必要な人だったのだというのです。

 それからこんなお話もありました。エイズの男の人何人かと恋人同士だったにもかかわらず、発病しないという男の方が紹介されていました。同じように、エイズにかかるような行動があったとしても、かからない人たちがいて、その人たちは、7百年ほど前に流行ったペストにかかった人の祖先だというのです。

ある病気がたくさん流行したときに、人類が絶滅するということをさけるためには、7百年という年月は必要だったろうということでした。ペストにかかった人たちの子孫が、そんなふうに、今存在しているのは、まるで、誰かが、7百年後にエイズが流行ることをみとおしていたようだと、NHKでは結んでいました。そして、今、現代の人類がたくさんの病気をくぐりぬけて、存在しているのは、過去の人たちの苦しみが生み出したものの上だと放送されていました。

 またテレビの中で、作家で、遺伝子科学の科学者でもある柳澤桂子さんが、こうお話しておられました。

「“悪い遺伝子”という言い方がありますが、個人にとって悪い遺伝子というのはあると思うんです。たとえば病気の遺伝子。しかし、社会にとって悪い遺伝子というものはないと思います。もしそういった悪い遺伝子があると考えるとしたら、悪いのは社会であって、遺伝子には悪いとかいいとかいうものはありません。そういうものなんです。ある程度で、病気を生み出すものなんです。ですから、社会全体としては、何%かの重症の子どもとか、ハンディキャップをもつ人たちを必ず支えていかなくてはならないのです。社会としては、そのことをもっと真剣に考えなくてはなりません。個人の問題ではないんです。

 ある割合で、障害をもつ人たちや病気の人たちが生まれるわけですが、その人たちは、自分の代わりに障害や病気を受けとってくれたのです。ですから、みんなでそうした人たちに、一生懸命尽くさなくてはならないと思います」

 もしかしたら、どんな病気も、それから障害も、“大きな力”が、きっといつかのいい日のために、生み出したものなのかもしれない・・・病気とか障害というものは、宇宙や地球や、人類の困難を助けるために、あるのかなあと思ったりもしたのです。

そして大ちゃんがいうように、誰もが、生まれてきたのには理由があるということを、科学的にも言えるというのが、とても興味深かったです。

それからもう一つ、どんなことも入り子構造になっているのなら、そしてもし、本当に“大きい力”というものが存在するのなら、病気や障害だけでなく、事故や、いろいろな悲しみや苦しみもまた、いつかのいい日のためにあり、それからえらいお坊さんがおっしゃったように、その人がむなしく生きなくてすむように、事や人との出会いもきっといつかのいい日のために、出会うべくして出会うのかなあと思うのでした。

  



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