宇宙の秘密

2 大ちゃんの知っていること

「僕が生まれたのには 理由がある 生まれるってことには みんな 理由があるんや」

「僕の手の上に 宇宙がある 僕の身体の中にも 宇宙がある 小さなありのからだの中にも いくつもいくつも 宇宙がある」

「星の光が見える 星と僕は知らないもの同士やけど 僕の心を動かし力を 持ってるんやな」

「葉っぱだって 石ころだって そこにあるだけで 心を動かす力がある それが“ある”ということなんかな」

「僕だってそこに“ある” “ある”ものはみんな 大切なんや」

「僕はここにいるけれど 宇宙を思えば 宇宙へ行ける ここにいても どこへ

もいける」

 大ちゃんが話す言葉を聞いたり、大ちゃんの詩を読むと、大ちゃんはもしかしたら、私の知らない、“大切なことや、本当のこと”を知っているのかなと思うことがあるのです。

大ちゃんは養護学校で出会ったお子さんです。出会ったばかりの頃は目も合わず、言葉を交わしてもわかりあうことはありませんでした。「今日 何曜日?」と尋ねても大ちゃんからは「俺 カレーライス食ったわ」とか「俺 犬怖いんや」というように、ちぐはぐな言葉しか返ってきませんでした。

 けれど、仲良くなっていくうちに、私は大ちゃんのことが好きで好きでたまらなくなり、大ちゃんもまた私のことを好きと思ってくれるようになったのだと思います。目が合わなかったことが嘘のように、大ちゃんはいつも私のことを見ていてくれるようになって、そして、また詩や言葉で気持ちをたくさん伝えてくれるようになりました。

 

「僕が生まれたのには 理由がある 生まれるってことには みんな 理由があるんや」

不思議なことを言う大ちゃんに

「どういう意味?」と尋ねると、大ちゃんは「読んでくれた人のとおりでいい」と言いました。「詩は読んでくれた人のものやから」そんなふうに言うのでした。

 大ちゃんが詩を作った意味はわからないままだったけれど、もしかしたら、大ちゃんは、いらない人なんていない・・・みんな大切で、みんなお互いにいろいろなことを伝えあって生きている・・・というような、人が生まれてくることの意味、生きていることの意味を教えてくれているのかなと思いました。

 

「僕の手の上に 宇宙がある 僕の身体の中にも 宇宙がある 小さなありのからだの中にも いくつもいくつも 宇宙がある」

 私は理科を専攻してきたからというわけではないのだけど、ときどき、大ちゃんに宇宙の話をしたり、ときには、分子や原子や電子の話をしたことがあったように思います。そのことを覚えていたのか、それとも、それとは関係なく、大ちゃんの心の中に、宇宙というものがどんなものなのかをはっきりと知っているのか、大ちゃんはこんな詩をつくりました。地球の周りを月が回り、地球は太陽の周りを回り、そして、太陽系は銀河系の中心をまわっている・・・電子もまた、核の中心をまわっている・・・もしかしたら、とてつもなく大きなものも、それからとてつもなく小さなものも、私たちも海も、空も、そして宇宙も、みんな同じ約束の中で生きているということを大ちゃんは言いたいのかなと、思いました。

「星の光が見える 星と僕は知らないもの同士やけど 僕の心を動かし力を 持ってるんやな」

「葉っぱだって 石ころだって そこにあるだけで 心を動かす力がある それが“ある”ということなんかな」

「僕だってそこに“ある” “ある”ものはみんな 大切なんや」

 あるとき、一緒に星をながめていた大ちゃんが、遠くに見える星と自分はぜんぜん関係がないのに、僕の心を動かす力があるのが不思議だなあと言いました。それから大ちゃんは「ある」ということについて考えたようでした。葉っぱをみて、石ころを見て、大ちゃんは詩をつくります。詩をつくらなくても、それで、転んだり、あるいは、葉っぱでできた影ですずしく感じたり、「ある」ということは、いろいろな影響を私たちにあたえるものですね。大ちゃんはものがそこに「ある」ということは、それだけで影響をあたえるものだと感じました。そして、もしそこになかったら、僕は感じなかったし、考えることがなかったかもしれない・・・あったから考えたんだと思ったのだと思います。もしかしたら、大ちゃんは「ある」ということは「大切だ」という証拠だと言いたかったのかもしれません。

「僕はここにいるけれど 宇宙を思えば 宇宙へ行ける ここにいても どこへ

もいける」

大ちゃんは「僕の心はいつも宇宙とつながっているんや」と言ったことがありました。「僕の心が宇宙へひっぱられる」と言ったこともありました。その意味を知りたくて、何度も何度も聞いたけれど、大ちゃんはやっぱり「読んでくれた人のとおりでいいから」というばかりでした。私は大ちゃんの心が、いつも大ちゃんにいろいろなことを知らせてくれる、宇宙か何か大きなところとつながっているのかな?などと不思議なことを思うのでした



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