宇宙の秘密

10 未来を決めるもの

「魔女」というお話をもうずっと前に作りました。小さいときから考えていたことや、それから感じていたことを、言い換えれば、この中では“宇宙の秘密”を頭の中において考えながら作った物語でした。(ホームページのドラゴンの絵からそこへいけます)

 「魔女」は将来、魔女になりたいと考えているモナという女の子が、魔女修行の旅に出るお話です。その中で生きることや出会いなどを考えていくのですが、考えながら私は幾度も、思ったことがありました。

 それは“大きな力”が私の未来をすべて決めているのなら、私はどんなにがんばっても、未来は変えられないの?がんばっても、がんばらなくても、同じなの?ということでした。くりかえし、そのことを考えながら、お話をすすめていきました。

少し魔女のお話から、いろいろな場面をここに書かせてください。抜粋なので、いったい何を言っているのかわからなくなりそうだけど、でも、今までのことを含めて、モナや登場人物が私に変わって話をしてくれるから・・

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「今日のいちじく(犬の名前です)の散歩はパパもいっしょにいくよ」モナはパパがパパなりの方法で自分の気持ちを整理しているのかなあと思いました。そしてそれはそのとおりだったようでした。 「僕は今日の日がくるのをママと出会ったときからわかっていた気がしたんだ」

「どういうこと?パパ」モナはまるで予言者のような話をするパパにおどろきました。

「僕は今日の日のためにママと出会ったのだと思うよ」

「パパの言ってること、よくわからない。わたしが魔女の実習に出かけるために、パパとママが結婚したというの?」

「そうだな、確かにそうとも言える。すべてのことがそうなんだよ。今いちじくとこうして散歩するために、僕は生まれ、ママと出会い、君が生まれた。昨日までのことは今日のことのためにあったんだ。それまであったうれしいこと、楽しいこと、悲しいこと、くやしいこと……すべてがあったから今日があるんだ。わかるかいモナ?もしひとつでも違っていたら、人生は違ったものになるんだ。一秒一秒が君の人生をきめているんだよ。そして今日だって明日のことのためにあるんだ」

「じゃあ、失敗は許されないの?」いつもおっちょこちょいで失敗ばかしのモナはとても不安になりました。

「そうじゃないんだよ。失敗も大事なんだ。どんなこともいいふうになっていくようにできているようだよ。悪いことばかし起こるように感じたとしても、それはいつかのいい日のために、そうなっているんだと僕は思う。だからといってどうでもよくすごしていいわけじゃないだろう。毎日、毎時間を大事にすることは、必ず、次の日やずっと後の日にいいようにつながるんだ。自分の人生のために、あとへ続く未来の命のためにということさ。すごいことだよね。このことを考えるといつもパパはわくわくするんだ。僕やママや君の残したことのすべてが次の世界を変えていくんだよ。すごいことだよね。みんなかかわりあってるのさ」

 モナには少しむずかしい話でした。けれど、今はわからなくても、いつかそのことがきっとわかるんだとモナは思いました。だから心の底になくさないようにきちんと片づけておこうと思ったのでした。  「魔女」5章から

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「ねえ、未来というものは変えられないの?私がどんなにがんばろうとも、どんなになまけようとも未来は一緒なの?だったらなまけたほうが楽っていう考えだってできる・・」

モナの言葉に男の人は小さい子供に説明でもするようにていねいに言いました。「モナ、今、君がここにいるのは、決められた通りにここにいるわけではないんじゃないか?君が、ひとつひとつのことに対して、右にするか、左にするか、上にするか、下にするか、しないかするか・・そういうことを決めた結果、ここにいるんだろう。どんなことも、君のひとつひとつの行動は、偶然ではなく、とてもとても必要だった・・今のこの君にとって、なくてはならないことだったのだよ。そのどれもが今の君にとても必要なことだったのだ。そして未来は変えられる。未来は未知数なのだよ。そうじゃないかい?」

「だったら私は空の魔女を助けにいかないかもしれない・・それなのに、どうして、空の魔女は私が行くと思っているの?どうして、ここに来ると知っていたの?今までもそうだった。私の運命はもう何十年も何百年も前からきめられているみたいだった・・私、自分で決められない人生なんて嫌だな。自分が誰かに踊らされているのなんて嫌・・。私は小さいときから魔女になりたかった。それが私の決めた私の夢だと思っていた。でもその夢だって、もしかしたら、誰かにむりやり見させられた夢だったの?」

 話しているうちに、モナは悲しくてたまらなくなってしまいました。悲しいと思うとその気持ちはとまらなくなり、モナはとうとうしくし泣き出してしまいました。「いや・・いやよ・・」子供のように泣き出したモナの心をその男の人はちゃんとわかってくれたようでした。

「だいじょうぶなんだよ。モナ違うんだ。さっきも言ったように、モナの人生はモナだけが決められるんだよ。モナの夢はモナが考えて、決めた夢なのだよ。よくお聞き。ただね、ひとつだけ決まっていることがあるんだ。けれど、それは悪いことではなくて、素晴らしいことなんだよ」モナはまだしゃっくしゃっくとしゃくりあげるように泣いていました。でも男の人の言葉につられるように顔をあげて聞きました。

「なあに、なあに?素晴らしいことって・・」

「それはね、何もかもが前向きにできているということだよ」また男の人はわからないことを言うのです。

「前向きに?前向きってどういうこと?」

「何もかもが前向きなんだよ。そうなんだよ。この宇宙を作っている、すべての物質が前向きなんだ・・風も、石も、地球も、宇宙も、細胞も人間も・・・。モナ?わかってくれるだろうか?たとえばそうだな・・僕たちが風邪をひいたら、それはいつかなおる。悲しいことはいつか思い出になる・・山火事になって燃えつきた所もいつか草がはえ、ジャングルになる。けがをしたら、それもなおる・・みんなが、自分で自分を癒すことを知っているのだ。赤ちゃんはいつか立とうと、寝返りをしたがり、つかまりだちをしたがる。そして歩き出す。そうしたいと心から赤ちゃんは願っているんだ。それから人も動物も、それから風邪のばい菌さえもが、自分たちの子孫を残そうという思いをもっている。人を愛し、子供を愛するということも、子孫を残そうというためだったり、心をいやそうというためだったりするのだよ。どんなことも、すべてのものが前向きに出来ているおかげなのだよ。そしてそれはひとつひとつのものだけではないのだよ。ひとつひとつを作っている小さな小さな細胞がそうだし、ひとつひとつが集まって作っている全体がそうなのだよ。モナの知っているすべてのもの、そしてそれをつながるつながりさえもが前向きなのだ」

 モナたちの話を聞いていたいちじくが、モナの肩にそっと触れました。「モナ、どうする?君の気持ちで、決めてすすむんだ」モナはじっと考えました。まだ男の人が言っていることはよくわかりませんでした。でも、私にあいたがっている魔女がいる。そして、どんな理由で会いたがっているにしろ、空の魔女は私に会いたいために、どんな危険かはわからないけれど、危険をおかそうとしている。そして助けられるのは私だけ・・。そう思ったとき、モナはやっぱり出発しようと思いました。「私、出発するわ。空の魔女の所へ」いちじくもうなずきました。「そうだね、とにかく出発しよう。モナが出かけようと思ったところに進むんだ。そうすれば、きっとそこには空の魔女がモナを待っているよ」

「魔女」25章から

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「ママ?じゃああなたは本当に私のママ?」

「そう、いつかのときにモナを生んで、私はモナのママになるの」

「だったら教えて欲しいの。ママはどうしてわざと私に助けられるために危険をおかさないといけなかったの?私はママにこんな形で会うためにここにきたの?私はママに会うために魔女になりたかったの?そして修行の旅に出たの?」またモナは心の中が迷子になりそうになっていました。だってモナは自分の人生をモナのための人生だと思いたいのです。誰かのためだけに生まれてきたのではないと思いたいし、自分で決めて生きていきたいと強く願ってきたのです。それなのに、ただ「そうなっている・・」かのようにあやつられて生きてきたのだとしたらどんなに悲しくつまらないことでしょう。モナはまた頭をかかえこんでしまいました。

 いつのまにかそこにパソコンの小屋で出会った男の人が立っていました。「モナ、少し説明が必要だろうか。モナ、すべてのものは大きな大きなこの世界の営みの中の、部品かもしれない。でも、どの一つがなくても、この世界は動かないのだ。けれど、それだけではないのだよ。ひとつのものがそこにあるために、他のものもすべてあるんだよ。それぞれのものたちは、それぞれの気持ちで、それぞれの生き方をする・・そのことがまた次の結果を生む。すべてのものは、たったひとつの存在の今のためにあるんだ・・今のモナのために、他のすべてのものが営まれてきたんだ・・」

「私のため?私のために世界中の人がいるの」

「そうだよ。過去の人も未来の人も・・すべての人が君のためにいるんだ。そして、ギルのためにとも言える。そして、いちじくのためにだ。あるいは、私のために・・あるいはそこに咲く小さな花のためにだ・・」

「モナ。他のすべてのものが、ひとつの今のためにある。お互い様なのだ。からみあっているんだよ。つながっているんだ・・わかるかい?どれも決してひとつではありえないんだ・・。時間も、空間も、そんなものはとうに越えてすべてのことが、つながりからみあっている・・モナ大きくなって、もしこの世界に来たことを忘れるようなことがあっても、このことだけは忘れないでいてほしい」

 モナのほおをいくすじもの涙が流れていきました。この涙はモナの気持ちのどこからきているのでしょうか?悲しい涙ではないのです。うれしい涙とも少し違うのです。ただ、静かに心におりてくるおだやかだけれど大きな感動がモナをすっぽりつつんだのです。

「魔女」28章

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 私は、なぜ人と人が出会うのかということを考えたいなと思うのです。なぜ、人は変われるのでしょう。人は人と出会ったり、本に出会ったり、映画に出会ったり、ことがらに出会ったり、そうすることによって、なぜ、大切なことに気がついて、変わっていけるのだろうと思うのです。

 遺伝子というものは、きっと顔かたちだけでなく、得意なこと、不得意なこと、体のつくりかた、病気のかかりやすさ、そして、ものの考え方、ありとあらゆるその人自身を作り出しているものだと思うのです。でも、人はたくさんの出会いによって、考え方や体のつくりや、得意や不得意や、顔かたちさえも変えていく・・・なぜ、“大きな力”は、生まれて持っている遺伝子だけで、すべてを完成させずにいたのでしょうか?

村上和雄さんは、こんなことをおっしゃっておられました。「人間の能力はあらかじめ遺伝子にかかれていて、それを決して越えることはできない。だからと言ってがっかりする必要なないよ。今、人間が使っている遺伝子情報は、全体の5パーセントほどにしかすぎず、ほとんどの遺伝子がOFFの状態にある。有限と言っても、それは私たちが考える有限の枠とは桁がちがう・・・我々が、こうなりたい、こうしたいと考えることはほとんどは可能なことばかりなんだ。OFFからONに変えるものは、たとえば感動がそうだと思う」

学校の子供たちといると、人の可能性はとても大きいとおっしゃる村上和雄さんのおっしゃることにうなづけるように思うのです。分厚い電話帳をあっという間に覚えたり、何十年も前のある日の曜日が、聞かれた瞬間にわかったり、びっくりするほどの重いものをもてたり、明日の天気が正確にわかったり・・・・人はすごく大きな可能性を持っているのだと思うのです。人は出会いによって、心が動き、その遺伝子をOFFからONに変えることで、変わっていけるということでしょうか?

何かことが起こったら、それに対して何を考え何を行動しようとするかということも、それもおそらくは遺伝子によることが大きいと思うのです。でも、人は、毎日、いろんなことを迷い、そして自分で決めて行動をしていると思うのです。右にしようか、左にしようか、コーヒーにしようか、ココアにしようか、飲むのをやめておこうか・・・今、寝ようか、お風呂にはいろうか・・・その迷いというか、気持ちを決めることの積み重ねで、人は明日を作っている、そして宇宙を作っている・・。その結果が、やっぱり、“大きな力”が望む方向であったにしても、一人一人の人が、宇宙の明日を決めているのじゃないかと私は思いたいのです。

 前に書いたお坊さんは「”なむあみだぶつ”とは、人がむなしく生きなくてすむように、”もの”や”こと”や”人”が、与えられるようにまわりにあらわれて出会うことができるということです。まわりにあるものもことも人もみんなその人に必要だからそこにあるということです」と言いました。

もしそのことが、真実で、“大きな力”が人がむなしく生きなくてすむように、あるいは、“宇宙全体”の進む方向のために、人がそちらへすすむように、まわりに現れるのなら、私は「大きな力」は、ひとりひとりの人を信じてくれているんだなあと思うのです。きっとこんな出会いをすれば、この人は、間違いに気がついて変わっていくだろう、このことに出会うことで、人は強く生きていけるようになるだろう・・・とそんなふうに思うのです。



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