宇宙の秘密

1 岐阜白川の講演会

「かっこちゃんは、“宇宙の秘密”を本当は知ってるんでしょう?」

「ちょっとヒントだけでも教えてくれない?」

私は古田さんの顔をまじまじと見つめました。

(宇宙の秘密!?私が知ってる!?)


古田さんったら、本当に不思議なことを言い出す人です。

 私はそのとき、岐阜にいました。古田さんはあるメーリングリストでの昔からの友人で

す。講演会の講師として、私を岐阜に呼んでくれたのでした。

 講演会の日を楽しみにしていたのに、私ったらそのとき、持ち前のうっかりから、その

日の講演会を、もう少しでめちゃくちゃにするところだったのです。

 ドジはいまに始まったことではありません。ドジで、うっかりで、そして、方向音痴で

おまけに、力がなくて・・・「お話に来て」とせっかく言って頂いても、私は電車のチケッ

トをとることすらむずかしいのです。乗り換えがあれば、必ずと言っていいほど、違う電

車に乗ってしまう、ときどきまったく反対の方向の電車に乗ってしまう・・・どこかに荷

物を忘れてしまう・・・駅の中でトイレに行っただけで、迷子になって、荷物のところへ

帰れなくなってしまう・・・

そんな私が、新幹線の駅岐阜から、高山線に乗り換えて古田さんが住む白川町へ来るこ

とは簡単なことではありませんでした。

いつのころからか、静岡の浜松の小林さんが、そんな私をみかねて、講演会やたくさん

の私のお世話をしてくださるようになりました。まったくのボランティアでしてくださっ

ている小林さんに、私はすっかりいろいろなことを頼りっきりなのでした。けれど、私は

石川県の小松に住んでいて、小林さんは浜松に住んでいる・・・

ホームをおりたとたん、すぐにどこかわからないところへいってしまう私を心配してく

ださって、小林さんは、飛行機でも電車でも、私が降りたホームや到着ロビーで私を待っ

ていてくださるのでした。その日も小林さんは岐阜駅のホームで私を待ってくださること

になっていました。

「とにかく、間違えなくその電車さえのれば、あとは大丈夫だからね」小林さんが口癖

のようにいわれることで、私はいつもどんなにほっとすることができたでしょう。それな

のに、その日、私は電車に乗るというところから、大きな失敗をしてしまったのです。


 「こんなスリルのある日は始めてだった」「今日は自分で自分をほめたい気がする」「あ

あ、守られてるね」

講演会が終わった夜、旅館について、眠る前に二人でジュースで乾杯をしようと珍しく

小林さんがいいました。「ああ、おいしい、ジュース」私もしみじみと手にしたデカビタの

おいしさを思いました。もし、あのとき、もう1分小林さんの電話が遅かったら、電車に

滑り込めなかったら、こんなにおいしいジュース飲めなかったなとしみじみ思ったのでし

た。

 私がした失敗とはこんなことでした。私がチケットの出発時間を見間違えていたのが始

まりでした。小林さんからいただいた3枚のチケットのひとつに11:00の文字。それ

が、小松の時間と私は思いこんでいました。けれど、本当はそれが、岐阜発の時間だった

のです。

11:00の電車と思いこんでいた私は友達と待ち合わせをして、9時頃から友達と遅

い朝ご飯をパンやさんで、食べていました。「少し早いけど、もう出たら?」友達の声に、

「そうね」と10時10分すぎにパンやさんを出ました。10時20分頃、駅の近くにつ

き、いつもの駐車場が満員でどうしようとためらっていました。そこへ小林さんから電話

があったのです。

小林さんはそろそろ、私が岐阜駅に着く頃だから、いったい何号車に私が乗っているのか

聞こうと思ったのだそうです。ところがそんなことを知らない私は「小林さん、駐車場が

満員でどうしよう・・」なんてのんきなことを言いました。小林さんは驚いて、「え!?チ

ケット何時になってる?」「11時です」そして、確かめてビックリ。11:00なのは、

岐阜からのチケット、小松は8時に出ることになっていました。急に青ざめて・・どうし

ようとすごくあせりました。とりあえず、隣の、(実は、時間いくらなので、一日も停めて

いたら大変だと思って、ためらっていたところにためらっている場合じゃないから、)駐車

場に車を停めて、いそいで駅にいきました。

私が車を停めているそのあいだに時間を調べていてくださった小林さんが、27分にし

らさぎがでるから、すぐそれに飛び乗ってと電話をくれました。それが25分。いそいで、

改札をくぐりぬけて、ホームに出たら、電車が今にも出そうなところでした。電話があっ

てから、たった2分。やっとそれに乗って、「乗れました」と電話をかけました。岐阜から

は高山線に乗ることになっていました。「岐阜についたあとは、タクシーがいいか、何がい

いか調べておくからね」という小林さんの声に、いったん電話を切ってから、いつも講演

会に使う大ちゃんの詩のOHPを家に忘れてきたことに気がつきました。

大変。また小林さんに電話をしました。「しかたがないから、大ちゃんのお話じゃないの

をします」「いや、なんとかするから」なんとかすると小林さんが言っても、、小林さんも

岐阜駅にいるのです。なんともできないと思うのにまたなんとかするとおっしゃいました。

それからしばらくして、小林さんから電話がありました。「浜松の家から、ファクスをホテ

ルにおくってもらって、OHPシートを売っているところも聞いたから、それに、コピー

してもらうから安心して」とのことでした。

でも、私、まだすごく動揺していました。2時間半も乗り遅れて本当に大丈夫なのかし

ら?高山線もそんなに電車の本数があるところではないのだそうです。乗り継ぎに一時間

以上も待つことだって、あるのだそうです。もし、いい電車がなかったら、やっぱり、講

演会の始まる2時30分に始まるはずがないのです。

ところが本当に運のいいことに、岐阜駅におりて、すぐに高山線に電車があったのです。

そしてその電車は2時25分に白川口つくということでした。白川口に着くと、そこへ迎

えに来てくださっていた古田さんの車で、車で2分の会場へ。途中古田さんが会場へ電話

され「無事到着しますからもう始めていいです」

古田さんに「ごめんなさい」とあやまると「ちゃんとやってくれますね。こうでなくち

ゃ。予定通りです」なんて言って安心させてくださるのです。というわけで、まるで何も

なかったかのように講演会は始まったのでした。けれど、よくお聞きすると、最初は2時

始まりの予定だった講演会が、何日か前に、なぜか2時半に変更になっていたとのこと。

もし、変更になっていなければ、もちろん間に合いはしませんでした。偶然が、たくさん

重なって、私はその日、講演会に間に合うことができたのでした。

小林さんも「何号車に乗っている?」と電話をしなくてもよかったのだけど、しようか

なとなぜか思い立ったそうで、もし、小林さんがちょうどそのときに電話してくださらな

かったら、その電話が1分でも遅かったら、もし、乗り継ぎがうまく行かなかったら、2

時から2時半に講演時間が変わっていなかったら、絶対に間に合わなかったと思います。

私は、その日、小林さんにはもちろんのこと、信心深くもないくせに、神様がおられる

なら宇宙中のあらゆる神様に、それから、たくさんの人に感謝したい気持ちでした。

そんな大変なことがあったその日の講演会のあとの、懇親会で、古田さんが

「ね、宇宙の秘密を本当は知っているのでしょう?」と私に聞いたのでした。

 私は古田さんはなんて不思議なことを聞くんだろうと思いながら、実は心の中に、い

くつか思うことがあったのでした。



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