ある日、突然被災者に

 たんぽぽの仲間たちで、雪絵ちゃんの「幸せ気分」を出版してくださった名古屋の鶴田さんからメールが届きました。鶴田さんの許可をいただいて、HPに載せさせていただきました。

ある日突然被災者でした。
やっと現地に入れるようになり、初めて会社に入ってビックリ!
500kgもある機械が、水に浮き、壁に打ちつけられたらしくリフトに乗り
あげており、工場のあちこちでカエルやトカゲがピョコピョコ、チョロチョロ。
一面泥の海。まるで泥田の中を歩いているようです。
自然の猛威と言いますが本当に水の力はすごいものです。流し台は倒れ
自分の背の高さ(160)位の棚に、書類ケースが乗っていたり扉の板が外れて
おりとんでもない所に、とんでもない物がありました。
水を吸った紙は信じられ無いくらい重くなっています。とにかく商品や物を全て
外に出さない事には泥を出す事もできません。初日は5人でやったのですが
うちの商品は重量物のところへ機械が水について使えませんので、ひたすら
肉体労働ではかどらないと言ったら・・・
昨日は仕入先の方や御得意さん、友人等10名程助っ人に来て下さり、自分達
だけでは考えられない程はかどり、半分くらい床の色が見えるようになりました。
人海戦術はスゴイ!
今日も友人が6名ほど。知り合いから借りた高温高圧洗浄機というハイテクと
ひたすら雑巾と板で水を掻き出すローテクで、ほとんど泥が無くなり全面床の色が
出てきました。それにしても泥は実に満遍なくどこにでも入り込んで、やっても
やっても泥がまるで湧いてくるような気がします。床に貼ってあったピータイルの
下もヘドロだらけで、そろそろ臭いが強くなってきましたので、一応全部の床が
見えるところまできて、やれやれで帰宅しました。
泥だけでこんなに大変なのですから、三宅島の方々はどれほど大変な日々を
過ごされている事かと胸が痛くなります。

自宅から、水に浸かった会社へ出かける時とても不思議なカンジです。
市内を通り抜ける間、あの大雨が嘘のように何の痕跡もありませんので、実感が
湧きません。ところが橋を渡って枇杷島界隈に入ると、あちらこちらに運び出された
家具や書類、さまざまなゴミがうず高く積まれ、被災地の様相が色濃くなってきま
す。
阪神大震災にボランティアで出かけた時にも感じた感触です。賑わいを極めている
ような街並みが切れ、突然その一角だけ瓦礫の山。
どちらが現実なのかしらと、ふと分からなくなります。
橋を渡る時、川面を見ても水位は低く、これが本当に堤防が決壊した川なのかと、
そこだけ色の違う部分を見なければ信じられないくらいです。

夕方消防車が走り回り、又決壊しそうだと警戒していました。先ほど又避難勧告が
出されました。うちはまだ自宅が別ですので、会社で泥と格闘してもゆっくり休む事
ができますが、自宅が水に浸かった方達は本当に大変な生活です。
記録的な雨とはいえ、いつも急流とか、大河ならともかく、ちいさな川があっけなく
堤防が決壊してこんな大きな被害がでるなんて信じられないような気がします。
やはり山の木が少なくなっていることや、田が少なくなっている事、道路がアスファ
ルトで舗装されていることで、水をじっくり受けとめられず鉄砲水状態になるんだろ

なぁと思います。あり方を問われているような気がします。
水害はとんだことですが、被災当事者の気分や、いろいろな人に助けられ生かされて
いる事を実感しています。手伝いに来てくださった人が、皆さん一様にこんなに
ひどいとは思わなかったと言われます。ニュースではダイジェストでしかない部分が
あり体験が無いと想像できない事が沢山あります。
(一番の実感、なんといっても人海戦術!)
これから仕事が再会できるようになるまで、なってからもいろいろ問題が山積みだと
は思いますが、今しか感じられないことを、じっくり味わいながら対応していきたい
と思っています。
今はとにかく堤防が再度決壊しないよう、明日穏やかな朝が迎えられる事を願って
います。長いメールでごめんなさい・・・

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ほ・の・ま鶴田紀子です。
突然被災者になって、早1週間です。
沢山の方にお励まし頂き、本当に有難く、感謝しています。
ただ、お手伝いできなくて・・・、と多くの方のお心を煩わせてしまい
本当に申し訳ありませんでした。
多分そう思われる方が多いだろうなぁと思いつつ、メールを送らせて
いただいたのは、被災者は片付けに精一杯で、なかなか発信などする
ゆとりは持てませんが、幸い我が家は自宅が別の地域ですので
お風呂もゆっくり入れますし、食べ物も温かい食事ができますから、
中からの被災状況をお伝えしたいなぁと思ったからです。
大丈夫?って声をかけてもらえるだけで嬉しく、励まされ頑張れるものです。

土曜日夜、再度避難勧告がでて冷や汗ものでした。
又決壊なんてなったらどうしようと思うと祈るしかなく、昔の人はこうして天に
手を合わせていたのだろうなと思いました。
お陰様でお天気が良くなり昨日、今日で大分作業がはかどりました。
うちの会社のある所は西区で名古屋市ですから、昨日ゴミの収集がされとても
助かりました。ただでさえ満杯のごみ処理場が、またまた一杯になると思うと
胃は痛くなりそう、かといって臭いはきついですし、水についた物はほとんど使い物
にならないので廃棄するしかなく、うず高くなる一方のゴミの山にため息ものでし
た。
ゴミ収集車は破砕しながらゴミを飲みこんでいきます。冷蔵庫、家具,機械なんでも
グシャ、ゴー。ものすごい量のゴミの山がみるみる低くなりビックリしました。
山が片付いて有難いのですが、せっせと作った商品や大事に使っていた機械が
潰されていくのを見ていると、やはり切ないです。でもお陰でスペースが出来ました
から片付けも次のステップに入れました。西枇杷島地区は処理場が決まらない
とかで、まだ山積み状態のようです。ゴミがうずたかく積まれているといかにも
被災地!というカンジです。早く撤去される事を祈っています。

今日は住居がマンションの上の階だった人や、床下だったというパートさんも
来てくださり、助っ人の友人やみんなでワイワイ片付けができました。
避難所へ行っていた時の話しを伺うと、ヘリコプターがうるさく広報の案内がよく聞
こえないので上に向って ”うるさぁい!飛ぶなら食料や水の一つも上から落とせ
!” 
と怒っている人が何人かおいでだったそうです。
ある所では最初非常食を配られたのは老人,子供のみでそれも乾パン少々、水一本を
3人で分けるというような具合。
ところが割合被害の少ないところで牛丼やらいろいろ手に入り、あるパートさんのご
主人は沢山もらって被害のひどかった、他の地区のパートさんの所へ運んで下さった
そうです。
阪神大震災の時もそうでしたけれど、こういうアンバランスはどうしたら解消される
のでしょう。
災害にあって気が動揺している時は、せめて温かい食事でも取れると落ち着きが違う
のにと思います。
以前TVでアメリカの災害対応のドキュメントを見ましたが、被害に遭った直後に担
当者が見て廻り、その場で被害状況に合わせ小切手を切って被災者に渡していまし
た。
そこまでの対応を望みはしませんが、せめて避難所暮らしの方に安眠できるスペー
ス、温かい食事、トイレ、お風呂が確保されれば、どれほど落ち着かれる事かと
思います。
会社のお隣さんは重度障害の方の無認可通所施設で、やっと資金を集めて作ったの
に…と話されてました。お年寄りや障害のある人、その家族にはとてもこたえる状況
です。
水を吸った畳の重さはものすごいですから、パートさんたちも比較的被害の無かった
人達が仲間のパートさんの家へ手伝いに行って下さいました。畳を運ぶ時 
”あと2枚!”とか声を掛け合いながらやっとの思いで運ばれたそうです。

現在進行形の復旧作業ですが、今感じている事は人の確かさ,有難さです。
現場に入れるようになった日から、毎日誰かかれか友達が手伝いに来て下さって、
信じられないくらい早く再開のめどが立ちそうです。
床の泥水を掻き出すのに、あの手この手でした。工場の床はデコボコで水がすぐ
戻ってきて途方に暮れていた時、建築家の友人は壁面に穴をあけて排水溝を作って
くれて作業効率大幅アップ! 雑巾に含ませバケツに絞るという原始的な方法も、
これが確実に泥水が減っていくのですね。若い友人は体力に物言わせ?何往復も…
みるみるきれいになっていきました。
その次の日は、なんとか使いたいとピータイルを残した所がやはり中からヘドロが
しみだしてきて結局全部はがす事に決定。(クサイ臭いは元から断たなきゃダメ…)
全部はがしタワシで洗い上げた頃、大工さんの友達が水も吸うという掃除機抱えて
来てくれたおかげで仕上げができました。
丁度良いタイミングで、さまざまな技の持ち主が現れて下さり、目に見えてきれいに
なっていくので初めは”どうにもならん、どうにもならん・・・”と言っていた社員
さんもみるみる明るい顔になってきました。
今合言葉は”(水が)出る前よりも美しく”です。折角物が減って?スッキリしたの
だから大掃除!と言って作業に励んでいます。

沢山の人に助けていただいた事で社員一同どれほど救われた事でしょう。
災害に遭ったことは嬉しい事ではありませんけれど、どうせなら楽しい被災者生活!
と運動会ののりで作業しては休憩し、今日はお隣の作業所の方も呼んでコーヒー
タイム。助け合える関係性があると、辛い出来事も笑って頑張れます。
2日に渡り手伝ってくれた友人から”大変な状況にもかかわらず確かな人の心の
つながりとあたたかさに溢れていて泥の汚さも臭いも気にならなくなってしまった
ように思います・・・”とFAXを貰いました。
しんどい作業を手伝って下さった人からの、こういう文章は本当に嬉しいものです。
この嬉しさは、取りも直さず孤立している人の大変さではないかと思います。
障害者施設は登録されているのでボランティアの人も集まられるそうですが、お年寄
りだけのお住まいや無認可施設、家族で抱えている人の所は盲点になるそうです。
コミュニティの大切さを思っています。
またまた長くなってすみません。
やはり非日常の世界ですので感じること多々あります・・・

ほ・の・ま  beyond the border
鶴田 紀子
honoma@mb.infoweb.ne.jp

http://www.ultraman.gr.jp/~vop/

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