新君の気持ち
銀行や証券会社の不振が報道されて、とても不安な気持ちがします。新君が遊びにきてくれて、私の顔を見たとたんに言いました。「だめかもしれん。会社も景気悪いし、いつクビになるかわからなんわ。何か起こったら僕らが一番に切られてしまうから」新君は工場で働いています。今は結束と言って、製品を機械を使ってひもでまとめるお仕事をしています。手足が思い通りには動かないのと、力がはいりにくいために、製品を台にのせてもらって、それを手でそろえて、結束のボタンを押すのですが、ひもで一度まとめるのにも、時間がとてもかかるのです。でも新君の一所懸命な働きようをいつも目にしておられる社長さんが、「たくさんの製品を作って、それをまとめて結束するのは縦に一度横に一度きりだから、それほど急がなくてもいいから大丈夫だよ」と言っていただいていました。 いつもの新君は「社長さんがほめてくれた」とか「少し速くできるようになった」と仕事の話をとてもうれしそうにしてくれるのに、今日は少し違っていました。
「僕、くやしいんだ。同じ養護学校出身でも、ほら知能の方の人たちは、僕みたいに一生懸命しないでも、ちょっとやって、あと遊んでいても、僕の3倍も4倍も仕事の量がこなせるからといって、僕の給料の倍もらってるということがわかったんだ。そんなのやってられないよ。あいつらきたないよ。ほとんど遊んでるんだぜ。それなのに倍ももらうなんて、社長も何もわかってないんだよ。あいつら汚いよ。みんな不況でだれかクビになるって言ってる。僕だよきっと。」新君が友達に対してそんなことを言うなんてとても以外でした。「そんな言い方、新君らしくないよ。他の養護学校を卒業した同僚のお友達が、一所懸命じゃないなんてそんなことはけっして言えないと思うよ。第一比べられないよ。少し遊ぶことが、その方にとっては次のお仕事をするのにとてもとても大切なのかもしれないじゃない?障害を持ってる人を分ける言い方をしちゃいけないっていつも言ってる新君なのに、今言ってることはやっぱりおかしいよ」私が言うと新君は「だったら僕ら、手足の不自由な者は食べるものも食べられず、いいところにも住めず、それでもいいって言うの?」新君は悲しそうに顔をふせました。
新君は私の言いたいことは最初からきっと「百も承知」してるのだと思います。いいえ、きっと私以上に、そんなふうに言うことがとてもおかしいことだと感じているのです。それでも言わずにいられないのだと思います。他の養護学校の友達たちをいつもかばったり、気にかけたり、こうしたらいいんじゃない?とアドバイスしているのはいつも新君なのですから・・いったいどうしたらいいのでしょう。本当に心配でなりません。そしてそれは新君にかぎったことではないのです。新しく就職をひかえている子供たちもご両親もやっぱりとても不安なのです。不況や何か起こったときに、いつもいつも不安でたまらなくなります。

みんなの気持ちのページへ

メニューへ戻る

inserted by FC2 system